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横浜家庭裁判所 昭和60年(少)6392号 決定 1985年8月23日

少年 D・N子(昭41・7・9生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和60年8月11日午前9時10分ころ、横浜市○区○○町×丁目××番地○○公園前路上に駐車中のA所有の普通乗用自動車の右後部バンパーに取り付けてあるパーソナル無線のアンテナを両手で左右に振りこれをひきちぎり、もつて同人所有のアンテナ等(損害額合計3万7400円相当)を損壊したものである。

(法令の適用)

刑法261条

(医療少年院に送致する理由)

1  少年は、乳幼児期に父母から見捨てられ親戚を転々とたらい回わしされた後母方祖父により養育されることになつたが、不良な地域環境に加えて、祖父に度を越した体罰を加えられたり放任されたりして基本的な躾を十分受けず、基本的な愛情欲求が充たされないばかりか適当な同性モデルのないまま成長し、小学生低学年のころから祖父の現金を持ち出したり、小学校4年生時には万引する等し、中学生のころから祖父に反抗的態度をとるようになり、中学卒業後は美容師見習等をして職場を転々とし、昭和58年1月ころ性的被害を蒙つてからそれまで有していた潜在的な男性願望が現実化し、同年10月職場で知り合つた女性と同性愛の関係をもち昭和59年3月ころから同棲するようになつた(この間、覚せい剤を乱用していたことを自認している。)が、少年の同女に対する暴力等から不和となり、昭和60年5月ころ同棲を解消することとなり、これを契機に情緒不安定となり、その直後勤務するようになつた理髪店の経営者と些細なことからトラブルを起こし、退職後も度々来店して執拗ないやがらせ的言動を発し、同年6月30日同店のウインドウガラスを破壊る等の器物損壊事件を起こし、いわゆる身柄事件として当裁判所に係属し同年7月26日保護観察の決定を受けて鑑別所を退所するも、就職しようとせず、鑑別所の女性教官に異常な関心を示して鑑別所に架電したり来所したり、注意をする祖父に対し暴力を奮つたり、深夜までスナックで飲酒する等無為徒遊の生活を送るうち、動機不明ながら、駐車中の自動車に取り付けてあるアンテナをひきちぎる等の本件非行を起こすに至つたものである。

少年は、準普通域程度の知能で一般的理解を示すことはできるが柔軟性に乏しく極めて主観性の強い物の見方をし視野が狭く、対人接触欲求は強いものの自己中心的で自己主張が強いため対人関係で衝突をきたしやすく、情緒不安定となり、また、感情統制力に乏しいため爆発的な感情発散をしやすく、社会性に乏しいため適応障害を生じやすいといつた極めて偏つた性格傾向を有し、横浜少年鑑別所の検査医師の診断によると、少年は発揚性精神病質の概念に近い性格異常であり、非社会的、反社会的言動がみられ、易怒性、攻撃性を呈したり、被害念慮や関係念慮を呈する等多様な症状の変化が認められ、臨床精神医学的及び心理臨床的検査が必要な状態にあるとされている。一方、少年の事実上唯一の保護者である祖父は、少年の異常な言動に困惑し監護の術を見失つている状況にある。

以上の諸点を総合すると、非行自体軽微ではあるが、少年が今後同種非行を反覆する可能性は強く、その要保護性は高いものと認められ、この際少年に対しては施設に収容して、精神科医等による適切な精査、治療を施したうえ、生活指導を中心に社会適応化を図り、もつて健全な社会生活を送れるように強力かつ体系的な矯正教育を施すことが必要かつ急務であると思料する。

2  よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を医療少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 黒岩巳敏)

〔参照〕抗告審(東京高 昭60(く)221号 昭60.9.24決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用(編略)する。

論旨は、その趣旨が明瞭でないが、要するに少年を医療少年院に送致することとした原決定には処分の著しい不当がある、というものと解される。

そこで検討すると、本件は、少年が路上に駐車中の普通乗用自動車の右後部バンパーに取付けてあるパーソナル無線のアンテナを両手で左右に振りこれを引きちぎり、右アンテナ等(損害額合計3万7400円相当)を損壊した、という事案であるが、原決定が「医療少年院に送致する理由」の項において少年の処遇について詳細説示するところは、当裁判所も正当としてこれを是認することができる。

特に、少年は、昭和60年6月30日、もと勤務していた理髪店の経営者らに対する不満から、同店のウインドウガラスをブロック塊で破壊したり、標示柱を引き倒したりしてこれらを損壊するという器物損壊の非行を犯し、同年7月26日、原裁判所において保護監察に付されたのに、右決定の僅か半月余でまたも本件非行に及んだもので、その動機は必ずしも明らかでないが、少年の言動には性格異常に基因すると認められる傾向が顕著で、横浜少年鑑別所により発揚性精神病質の概念に近い性格異常と診断されており、一方少年の保護環境は極めて劣悪で、少年を社会生活に適応させるためには、施設に収容して適切な医療措置と矯正教育を施す必要があると認められるから、少年を医療少年院に送致することとした原決定に処分の著しい不当があるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、少年法33条1項、少年審判規則50条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柳瀬隆次 裁判官 阿蘇成人 中野保昭)

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